【研究成果】ポリドクターと高齢者の健康アウトカムに関する大規模研究を発表
Scientific Reports誌に論文が掲載されました
この度、当科の安藤医師が実施した「ポリドクタリングと高齢者の健康アウトカム」に関する大規模研究が、国際誌 Scientific Reports に掲載されました(2025年1月)。
論文タイトル: Polydoctoring and health outcohttps://www.nature.com/articles/s41598-025-18178-5mes among the very old population with multimorbidity: a retrospective cohort study in Japan
研究の背景
高齢化が進む日本において、複数の慢性疾患を持つ高齢者の医療提供体制のあり方は重要な課題となっています。特に、複数の医療機関を受診する「ポリドクター」が患者の健康にどのような影響を与えるかは十分に解明されていませんでした。
本研究では、この疑問に答えるため、日本最大級の医療データベースを用いて詳細な分析を行いました。
研究方法と規模
- 対象者: 75-89歳の複数慢性疾患患者 233万8,965人
- 観察期間: 2014年4月から2022年12月(最大8年間)
- データソース: DeSC医療データベース(北関東、近畿、東海、四国地域)
- 評価項目: 死亡率、入院率、ACSC入院率、外来医療費
主要な研究成果
1. 死亡率への影響:専門医療の恩恵を確認
- 定期受診施設数(RVF)の増加に伴い死亡率が有意に低下
- 定期受診なし群:最高の死亡リスク(ハザード比3.23)
- 5施設以上受診群:最低の死亡リスク(ハザード比0.67)
2. 医療費の大幅増加:持続可能性への課題
- RVF 5施設以上では1施設受診と比較して外来医療費が 3.21倍 に増大
- 高齢化社会における医療経済への重要な示唆
3. 予防可能入院のU字カーブ:最適なケアレベルの存在
最も注目すべき発見は、ACSC(Ambulatory Care-Sensitive Conditions:外来ケアで予防可能な疾患)による入院がU字カーブを描くことでした。
- RVF 2-3施設: ACSC入院率が最も低い
- RVF 5施設以上: 再び入院率が上昇(ハザード比1.13)
この結果は、多施設に通院することのメリットとデメリットを科学的に証明しました。
医療政策・臨床実践への示唆
統合的ケアの重要性
本研究は、過度の専門分化よりも、適切なレベルでの医療機関間連携と統合的ケアが重要であることを示しています。これは単なる医師数や専門医数の議論ではなく、ケアの質と連携に焦点を当てた議論の必要性を提起しています。
持続可能な医療システムの構築
死亡率改善という利益がある一方で、医療費の大幅な増加は看過できません。超高齢社会を迎える日本において、臨床効果と医療経済のバランスを考慮した医療提供体制の再構築が急務です。
プライマリケアの価値再認識
定期受診のない患者群の極めて高い死亡率・入院率は、継続的な医療アクセスの重要性を改めて浮き彫りにしました。これは、質の高いプライマリケアと適切な専門医療の組み合わせの価値を示すものです。
研究の意義と今後の展開
本研究は、日本の医療制度の特徴である「フリーアクセス」システムにおけるポリドクターの実態を、世界で初めて大規模データで定量的に評価したものです。
おわりに
本研究は、複雑化する高齢者医療において「量から質へ」「専門分化から統合へ」という医療パラダイムシフトの必要性を科学的に示したものです。
当科では今後も、医療の質向上と持続可能性の両立を目指した臨床研究を継続し、エビデンスに基づく医療政策の提言に貢献してまいります。
論文詳細情報
Ando, T., Sasaki, T., Fujikawa, H. et al.
Polydoctoring and health outcomes among the very old population with multimorbidity: a retrospective cohort study in Japan.
Sci Rep 15, 32046 (2025).